急所蹴り
「…一体何を賭ける気よ」
こんな奴とは話もしたくはないが、受身を取ったとはいえ、リングの石版に打ちつけられたダメージはまだ回復していない。痛みが引くまで時間を稼いでおきたかった。
「なぁ〜に、お前が勝てば何でも一つ望みを叶えてやろうじゃないか」
コングの言葉にクレアは眉をひそめつつ、なおも尋ね続けた。
「何でも?」
コングは笑みを浮かべたまま頷く。
「ああ、何でも、だ。その代わり俺様が勝ったら…」
嫌な予感がする。クレアは喉をゴクリッ、と鳴らし、尋ねた。
「…あんたが勝ったら?」
「俺様が勝ったら、お前、俺の嫁になれっ!」
………………………………
クレアは無言だ。
「悪いようにはしねえ。どうだ、俺様の嫁にならねえか?」
まだ勝ってもいないし、そもそもクレアがこの賭けを受けるかどうかも明確にしていないのに、クレアを説得、と言うよりはプロポーズ…なのだろうか?はなは甚だ疑問が残るが…コングはクレアにそう告げていた。
二人の会話をリングのすぐ近くで聞いていたレイは、
「…クレアをくど口説こうとする男がこの世(レイは『あの世』なるものが存在するかどうか確証はないが)にいるとはな…(仮に『あの世』があったとしてもクレアに求婚する者など天地がひっくり返ってでもいない、と今の今まで確信していたが)よほど馬鹿なのか…それともこの世とあの世とやらの不運を一身に背負って生まれてきたのか…あるいはその両方か…とにかく気の毒な奴だ…」
レイは心の底からコングという男に憐れみの感情を込めて呟いた。
そんなことをレイが呟いているとは知らずに、クレアは頬を引きつらせながらコングに問い掛けた。
「ねぇ、一つ質問してもいい?」
「なんだ?」
コングは不思議そうにクレアに尋ね返した。